2020年もあと1日足らずで暮れようとしております。
おかげさまで、2020年5月には週刊歌らんは600回を迎え、11月には12周年となりました。そんなこんなで10年以上歌ってみた界隈を第三者的な立ち位置で主に再生数などといった数字を中心にみてきた流れで2020年をざっくりと振り返りますと2020年は
- 歌ってみたの投稿数がついに上昇トレンドになるも……
- ネット全体を巻き込んだ一大ブームにも乗りきれなかった歌ってみた
- 歌われる楽曲だからといって再生数が必ずしも伸びない状況
- 伸び悩む歌ってみた付きオリジナル曲
といった年でした。
まず、歌ってみたの年間投稿数ですが、89,457本(2019年12月25日午前5時~2020年12月25日午前4時59分59秒に投稿され、2020年12月25日午前5時時点で視聴可能だった動画)となり、2019年の同時期に投稿された動画本数と比較して15,260本増加しました。週次での投稿数をみていてもついに投稿数が上昇トレンドへ変化した、といっても良いかと思います。
しかし、投稿数が増加したから安泰かというとそういう状況でもなく、2019年1月第1週に157を記録した再生数の第三四分位(週間新着動画を全部並べて上位4分の一を切り取ったところの数値)は100再生を割り込む状態がこの一年続いたままとなっており、2020年12月第4週には76という状況に低迷しています。さらに12月第2週には、突発要因があった模様であるとはいえ、52という記録的な低水準に至っています。この間、再生中央値(週間新着動画を全部並べてちょうど半分の数値)は第三四分位の大幅な下落を受けて減少したとはいえ、2019年1月第1週の59から2020年12月第4週には35となった程度で踏ん張っています。
再生数の標準偏差も同様の状況で、2018年12月期には4,619.1979~8,119.0290でしたが、2020年12月期には1,779.8557~4,312.2029となりました。標準偏差はばらつきが大きいほど数が増えていくので、この結果は投稿本数が増えているにもかかわらず、再生数のばらつきは縮小していることを示しています。
再生数のトレンドからは、ニコニコ全体の視聴者層が歌ってみたに期待しているトレンドを上位層にいるプロ歌い手の皆様が上手くつかみきれず、自分たちの持つ固有のファン層による視聴に頼ってしまっている状況が続いているといえます。さらにニコニコ全体が運営公式による様々な施策によって全体として再度上手く回り始めている流れ、そしてその流れから生じた、ニコニコ発としては久しぶりの一大ムーブメントとなった「たべるんごのうた」ブームに歌ってみた全体が乗り切れなかった要因にもなっていると考えられます。
こうした状況の中、2020年7月27日にニコニコで「いいね」機能がリリースされ、「とりあえずマイリスト」が「あとで見る」へ変更されました。そして、いいねが公式ランキングへ影響するようになったと同時に「とりあえずマイリスト」(「あとで見る」)が公式ランキングへ影響しなくなるという大幅な改修が実施されています。この結果、これまで熱心なファンが「マイリスト」「とりあえずマイリスト」の両方へ登録することでマイリスト数を増やしていたトップレイヤーにいる一部プロ歌い手の皆様の公式ランキング順位が明らかに下落しています。具体的な計算式は不明ですが、おそらくこのいいねの数を公式ランキングへ反映させるタイミングでマイリスト数などの計算式も変更され、ニコニコ内でよく動画を見ている人たちに評価される動画が公式ランキング上位に上がりやすくなり、一方でニコニコ内のニーズを気にすることなくSNSからの送客でランクインしていたプロ歌い手の皆様には完全な逆風となったと考えられます。
その結果、私が独自の集計式で作成している年間ランキング(2020歌ってみた新着動画ランキング)でもトップ3が完全に入れ替わりました。
いまの状況について、一部では「自分たちがニコニコを捨てたのではなく、ニコニコ(の運営)に自分たちが見捨てられた」などというニュアンスの発言をされているプロ歌い手の方もいらっしゃるようですが、数値データやニコニコ全体を俯瞰した上で歌ってみたの置かれている状況を考えるとむしろプロ歌い手の皆様方が率先してニコニコの視聴者層を捨てているのはではないかと愚考する次第です。詳細は弊ブログの別記事「空気の変わったニコニコ動画における歌ってみたの戦略について」をご確認いただきたいのですが、率直に書くと「ニコニコの視聴者層が大きく変わったのに2017年と同じことをしていたら再生数を伸ばすどころか維持すら難しいよね」ということです。
ニコニコが様々な改善やサービス終了・改定を実施したこの3年間に大きく変化したのは機能面だけではありません。一番大きく変わったのはニコニコが再び動画コミュニティサイトに戻りつつある、という点です。YouTubeはサイト全体がコミュニティサイトということはなく、個々人が好きなように独立したチャンネルを利用する「動画置き場」です。ニコニコも2017年の「niconico(く)発表会」大炎上騒動まではコミュニティサイトとしての色合いが薄れていました。その後も2018年頃まではそうした空気が残っていたのも事実です。しかし、改善が安定したサイクルとして回り始めた2019年初頭以降は少しずつコミュニティサイトとしての色合いを戻しはじめ、各所でプチブームが起こりつつある状況でした。コミュニティサイトに戻りつつあることで公式が発表しているジャンル・タグランキングや動画をよく見ているコア層のおすすめ・ニコレポなどからの動画への新規流入が増加、ジャンルを横断した視聴行動が強くなり、サイト全体での波及効果で再生数が回っていきます。そうするとこれまでのようなSNSとの一方通行ではどうしても再生数が伸びなくなっていきます。そこに2020年1月のたべるんごのうた投稿に始まる一大ムーブメントが到来したのです。ここでたべるんごのブームに上手く乗れていれば、これまでのファン層とは全く違う人たちから一目置かれることにもつながり、さらなる飛躍もあったと思うのですが、残念ながらそのトレンドに乗ったトップ層のプロ歌い手はいなかったのが実情です。その結果がこの状況につながっているといえます。
また、ここまで述べてきたような大きなトレンドの変化は楽曲と再生数の関係にも波及しました。今年、最も歌われた楽曲はkanariaさんのKINGで実に1717本も投稿されましたが、今年投稿された動画の年間ランキングTOP100に入ったのは5本です。ゴーストルールは2016年に1498本投稿されて9本がTOP100に入りました。これまでは投稿本数の多い楽曲は自然と全体的な再生数も回る傾向にあり、現在でもその傾向は残っていますが、これまでと比べると勢いがかなり弱くなってきています。さらに歌ってみたタグがつけられて投稿されるメジャー流通のオリジナル曲も今年は全体としてさらに再生数が回らず、勢いが弱くなっていました。
これもまたニコニコの主要視聴者の変化によるものです。特に歌ってみたタグを商業流通するオリジナル曲のMVにつける、という行為は、2019年に「オリジナル曲の「歌ってみた」タグは不要な時代に」という記事にも書いたとおり、ニコニコというコミュニティ内からの評価を落とす状況です。この傾向は今年に入ってますます強くなっており、結果として、商業オリジナル曲を歌ってみたタグで投稿しているということが判る方々は、歌ってみたのタグ公式ランキングへランクインしてもそのままスルーされて、再生に至っていないのではないかと思われる数字の状況です。
ここまで、歌ってみた、特にトップレイヤーの皆様が置かれている現状を分析して参りました。
もちろん、「自分の歌を聴け!」というのが歌ってみたの本質ではあるので、歌いたい曲を歌うというのは尊重されるべきなのですが、視聴者層を無視する以上は、再生数が期待通りでなかったとしても、それはあくまで自我を貫いた結果ですので、サイト側の問題にすり替えるのは違うのではないか、と考えます。ニコニコにも改善の余地はまだあるとは思いますが、ネット全体を巻き込むブームが再びニコニコから発生したという状況を踏まえると「ニコニコはもうオワコンだから自分の動画は再生数が回らない」のではなく、「いまニコニコにいる視聴者層のニーズを捉え切れていないから再生数が回らない」と考えるべきかと思います。
そして、この状況ですとニーズを上手くつかんでいった人が注目を集めることは可能です。再生数が伸び悩んでいる中堅層の皆様は、新たなブーム、あるいは運営が公式に煽っている参加型企画(例えばThe VOCALOID Collection)で「祭に参加する」ことをおすすめします。「たべるんごのうた」ブームでは、普段100再生に行かない状況で苦しんでいた方があっという間に1000再生を超えるなどといった事象も複数例観測しております。いまなら一発逆転は十分にあり得ます。
そして最後に毎年書いていることですが、引き続き一部で歌ってみたに関する誤った情報が流れている状況がちらほら見受けられます。一応12年以上毎週歌ってみたを数字で見続け、歌い手の皆様の動きなども追いかけ続けている中で、さすがにこれは変ではないかと思った件についてはTwitterにて言及させていただいております。もし、歌ってみたの様々な情報を流すWebラジオプログラムやニコニコ公式チャンネルなどをご検討の企業団体、歌ってみたについて記事にまとめたいというメディアなどがございましたら12年以上第三者的な立ち位置で主に数字を中心に歌ってみたを俯瞰してきたものとして、最大限の協力をさせて頂きたいと思います。
……と書いておりましたら、ニコニコの運営から公式番組にお声がかかりました。おそらくはこの記事で書いているようなことに加えて、今回はあえて省略したニコニコ運営サイドの問題点なども話すことになるのではないかと思います。詳細は別記事「【お知らせ】週刊ニコニコインフォ(ニコニコ公式ニコ生)へ出演いたします」にて告知を出しておりますので、よろしければご視聴下さい。
2020年の歌ってみた界隈を思うままに書いてみました。見ている位置によって見える風景は違うとは思いますが、12年以上数字を中心に歌ってみた界隈を見続けてきた私にはこんな感じに見えている、ということでご理解いただけますと幸いです。さて、2021年の歌ってみたは果たしてどんな景色となりますでしょうか。それでは、皆様引き続きよろしくお願いします!